企業が直面するCO₂削減推進の壁とは?バックキャスト型ロードマップにヒントあり!

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CO₂削減の必要性が社会全体で認識され、企業でも具体的な取り組みが進められています。排出量の把握や省エネ促進など、初期的な対応を進めてきた企業も増えてきました。一方で、企業の現場では次のような声も聞かれるようになっています。

「基礎的な省エネは一通り進めてきたが、この先どう進めればよいかわからない」
「削減の必要性は理解しているが、設備投資の判断に踏み切れない」
「施策はいくつか考えているが、経営層を納得させられない」

こうした声の背景には、CO₂削減の取り組みが次の段階に差しかかっているからこそ顕在化する課題があります。本記事では、企業が直面するCO₂削減推進の「壁」に焦点を当て、その構造とアプローチの方法を整理していきます。

CO₂削減が企業経営に求められるようになった背景

これまでも多くの企業は、省エネの観点からエネルギー使用量の削減に取り組んできました。しかし近年では、「どれだけエネルギーを使ったか」だけではなく、「結果としてどれだけCO₂を排出したか」が、より強く問われるようになっています。

この変化の背景として、まず挙げられるのが国際的な動きです。2020年以降、パリ協定に基づく取り組みが本格的になり、2050年までのカーボンニュートラル実現が各国共通の目標として掲げられるようになりました。

日本でも2020年に「2050年カーボンニュートラル」が宣言され、2030年度には温室効果ガスを2013年度比46%削減する目標が掲げられています。さらに、2035年度および2040年度においては、それぞれ2013年度比60%、73%削減する目標も示されています。

あわせて、企業側の動きも大きな影響を与えました。たとえば、トヨタ自動車をはじめとする完成品メーカーは、サプライチェーン全体での排出量把握と削減を方針に掲げ、取引先企業に対しても排出量データの提出や削減努力を求めています。

このように、これまでの「省エネ=コスト削減」という文脈に加え、取引要件や経営課題としてのCO₂削減が強く意識されるようになったことが、現在の大きな変化と言えるでしょう。

「知る・測る・減らす」における理想と現実

こうした社会的背景のもと、多くの企業がCO₂削減に向けた取り組みを始めています。その際によく示されるのが、環境省の手引きにもある「知る → 測る → 減らす」というステップです。

CO₂削減に関する背景や自社への影響を理解し(知る)、自社のエネルギー使用量やCO₂排出量を把握したうえで(測る)、その結果をもとに具体的な削減施策を実行していく(減らす)という手法です。この流れは構造として非常に分かりやすく、多くの支援施策やガイドラインにおいても基本的な進め方として示されています。

一方で、実際の現場では、このステップを理想どおりに進めるのが難しいケースも見受けられます。たとえば「測る」という段階では、本来は測定器を設置し、設備別・工程別のエネルギー消費量を把握したうえで、削減ポテンシャルや施策の優先順位を整理し、その結果を削減施策の実行につなげていくのが望ましいです。

しかし、測定機器の導入等には一定の投資が必要になるため、初期段階でそこまで踏み込めない企業も少なくありません。こうした状況を踏まえ、各種の手引きや支援の現場では、まずは運用改善など取り組みやすい施策からの着手が勧められる場面も多く見られます。

初級フェーズでは、比較的投資のかからない施策が順調に進む

環境省では、CO₂削減施策の検討時に、減らす、改善する、切り替える、作るの4つの観点を指針として示しています。この4つの観点に対し、投資のかからない施策とかかる施策の一例を表1にまとめました。

実際、多くの企業では、比較的投資のかからない運用改善型の施策から取り組みを始めます。照明の間引きや点灯時間短縮、空調のフィルタ清掃や保守頻度の見直しなど、大きな投資が必要ないことから現場主導で進めやすく、一定の成果も出やすい領域です。そのため、カーボンニュートラルの取り組みは、ここまでは比較的スムーズに進むケースが多く見られます。

しかし、初歩的な施策をある程度やり切った段階で、多くの企業は次の局面を迎えます。

表1 分類別のカーボンニュートラル施策の例(環境省「脱炭素経営導入ハンドブック」を基に作成)

真の「壁」はなぜ生じるのか

運用改善による施策が一巡すると、次に検討すべき施策は、高効率設備への更新や制御システムの導入や太陽光発電などの再生可能エネルギー導入といった、設備投資を伴う施策になります。

この段階で、多くの企業がカーボンニュートラル推進の「壁」に直面します。これまで比較的スムーズに進んでいた取り組みとは異なり、意思決定のレベルが変わるからです。

運用改善は部門レベルで進められることが多い一方、設備投資には経営判断が求められます。そして経営判断には、財務合理性や資本効率との整合が不可欠になります。しかし、初期フェーズの延長線上で施策を積み上げてきた場合、次のような議論が行われるケースがあります。

  • その投資が削減目標にどう寄与するのか
  • 実施しなかった場合、どの程度目標未達となるのか
  • 他の経営課題とどう優先順位をつけるのか
     

こうした論点が整理されていないケースも少なくありません。つまり、壁の正体は投資額の大きさではなく、全体設計がないまま個別施策を積み上げてきたことにあります。

壁を越える鍵は「バックキャストによるロードマップ」

この壁を越えるために必要なのが、削減目標から逆算するバックキャスト型のロードマップです。

多くの企業では、「20XX年までに○%削減」といった中長期目標自体は掲げています。省エネや設備更新、再生可能エネルギー導入など、いくつかの削減施策案が挙げられている一方で、それらを組み合わせたときに目標へ到達できるかどうかを検証できているケースは決して多くありません。

そこで重要になるのが、削減目標から逆算して、どの施策を組み合わせれば到達できそうかを整理し、施策ごとの削減効果を概算で積み上げて確認することです。

この段階では、必ずしも測定機器等による詳細なデータが揃っている必要はありません。設備仕様やエネルギー使用量など既存の情報をもとに、おおよその削減ポテンシャルを把握できれば十分です。

削減施策と削減量の見通しが整理できたら、それらを時間軸に落とし込むことが次のステップです。たとえば、図2に示すように、太陽光設備の導入、再エネメニューの変更、ボイラーの電化といった各施策が、どの程度の削減効果があり、いつまでに実行するのかを明確にしていきます。

この作業を通じて、どの施策が目標達成にどの程度寄与するのか、また、どの段階で設備投資が必要になるのかといった全体像が見えてきます。こうした整理があって初めて、脱炭素に関する議論を経営の意思決定の土俵に乗せることができます。

もちろん、ロードマップを描けば自動的に投資判断が下せるわけではありません。実際の意思決定では、収益性や資本効率、事業戦略との整合など、さまざまな要素が総合的に検討されます。

それでも、目標から逆算した実行計画がなければ、どの投資が本当に必要なのかを議論することも難しくなります。ロードマップは結論そのものではありませんが、経営としての意思決定を進めるための出発点になるものと言えるでしょう。

図2 各施策の削減量の内訳と実行計画の例

まとめ 「できることから始める」から「戦略的に進める」フェーズへ

「企業が直面するCO₂削減推進の壁とは?バックキャスト型ロードマップにヒントあり!」と題して、ご紹介してまいりました。CO₂削減の取り組みは、運用改善など着手しやすい施策から始めることで一定の成果を出すことができます。しかし、設備投資を伴う段階に進むと、これまでと同じ進め方では対応が難しくなります。

削減目標を起点に中長期のロードマップを描き、各施策の役割や優先順位を整理したうえで、どの投資が目標達成に不可欠なのかを明らかにすることが重要です。

CO₂削減は、場当たり的な改善の積み重ねだけでは前に進みません。「到達すべき姿から逆算し、戦略として実行する」この視点への転換こそが、企業がCO₂削減推進の「壁」を越えるために、いま求められていることではないでしょうか。

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