カーボンニュートラル実現に向けた取り組みの次のステップ
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カーボンニュートラルは、もはや企業の取り組み姿勢を示すスローガンではなく、経営そのものを左右する実務課題となりつつあります。特に製造業においては、日本の産業を大きく担っている一方、製品の生産に伴い、多くの温室効果ガスを排出しており、カーボンニュートラル実現の主役は製造業であると言っても過言ではありません。
本記事では、これまでの日本の製造業はカーボンニュートラル実現に向けてどのように取り組んできたのか、次のステップとしてどのように取り組んでいくべきか、カーボンニュートラルの意味から分かりやすく解説いたします。
カーボンニュートラルとは
カーボンニュートラルとは、「人間の活動によって発生する温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすること」と定義されています。
例えば、自動車を運転する際、ガソリンが燃焼されることにより二酸化炭素が排出されます。二酸化炭素は温室効果ガスの1つです。一方、植林や森林管理を行うと、光合成により、樹木は二酸化炭素を吸収します。
このように人為的に発生させた温室効果ガス排出量から吸収量を差し引いた値を、ゼロにすることを、カーボンニュートラルと呼びます。カーボンニュートラルは、温室効果ガスを一切排出しないことを意味するのではなく、削減と吸収・除去を組み合わせてバランスを取る点に特徴があります。
もし、カーボンニュートラルに取り組まないまま温室効果ガスの排出が続くと、地球温暖化が一層進行し、地球環境と人間社会の両方に深刻な悪影響をもたらします。気温上昇により猛暑の常態化、豪雨や干ばつ、台風の激甚化などが頻発することで、人命やインフラ、そして企業活動にも大きな被害が生じます。
さらに、急激な気候変化に適応できない動植物が減少・絶滅し、生物多様性が損なわれることで、生態系のバランスが崩れ、食料供給や水資源にも悪影響が及びます。このように、カーボンニュートラルに取り組まないと、地球環境の悪化を加速させるだけでなく、人類の持続的な生活や社会の安定そのものを脅かす結果につながります。
企業の目線で考えると、カーボンニュートラルに取り組まない場合、まず事業継続そのものに関わるリスクが高まります。世界的に脱炭素規制や環境基準が強化される中で、対応が遅れる企業は、輸出規制や追加コストの発生、顧客企業からの取引見直しといった形で競争力を失う可能性があります。
また、環境対応を重視するグローバル企業や金融機関が増えてきており、カーボンニュートラルへの姿勢が不十分な企業は、投資や融資を受けにくくなるほか、企業評価やブランド価値の低下を招くおそれもあります。加えて、環境意識の高い人材から選ばれない企業になるなど、中長期的には人材確保にも悪影響が及ぶと考えられます。
一方で、カーボンニュートラルに取り組むことには多くの経営上のメリットがあります。省エネルギー化や工程改善を進めることで、エネルギーコストや原材料コストの削減につながり、利潤の拡大が期待できます。
また、低炭素製品や環境配慮型技術の開発は、新たな市場や付加価値の創出につながり、競争における差別化要因となります。さらに、環境課題に主体的に向き合う姿勢は、顧客・従業員・投資家からの信頼を高め、企業の持続的成長を支える基盤ともなります。
このように、カーボンニュートラルは単なる環境対応ではなく、日本の製造業にとってリスク回避と成長機会の両面を持つ重要な経営テーマと言えます。
これまでの日本企業の取り組み
カーボンニュートラルの取り組みの第一歩として、多くの製造業では企業全体の温室効果ガス排出量を把握し、削減に努めてきました。温室効果ガス排出量は、排出源と企業活動との関係に基づいて、Scope1,2,3に分類できます。
- Scope1は、ガソリンなどの燃料の燃焼や工業プロセスといった、事業者自らによる温室効果ガスの直接排出を指します。
- Scope2は、電力会社から調達した電気の使用といった、他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出を指します。
- Scope3は、Scope1、Scope2以外の間接排出を指します。サプライヤーからの排出、部品や製品の輸送・配送に伴う排出、製品の使用・廃棄による排出など、自社のサプライチェーンに関連する他事業者の排出がScope3に含まれ、15のカテゴリに分類されます。
そして、Scope1,2,3排出量を算定した後、カーボンニュートラル実現年の目標や、中間目標として2030年までの排出量削減量などを定めます。省エネ、再エネ、燃料の脱炭素化などの観点で、目標達成に向けたロードマップも策定します。
昨今では、統合報告書やサステナビリティレポートを作成して、自社サプライチェーンの温室効果ガス排出量や、カーボンニュートラル実現に向けたロードマップを開示する企業が非常に増えています。
一方で、カーボンニュートラルの取り組み状況に関して企業にヒアリングしてみると、目標に向かって順調に進んでいる企業は限定的で、排出量削減に苦慮する企業が多いようです。
次の時代の日本企業の取り組み方
これからの日本企業が実効性のある排出量削減施策を着実に実行していくためには、以下に示す3つのアプローチが重要です。
- 温室効果ガス排出量を詳細に把握する
- 製品企画部門や開発部門が主体となる
- バリューチェーン企業間で連携する
温室効果ガス排出量を詳細に把握する
Scope1,2,3の粒度で温室効果ガス排出量を算定しただけでは、排出量削減に向けた攻めどころを把握できず、有効な打ち手を考えることができません。そこで製品別、部品別、工程別、拠点別など、より詳細に温室効果ガス排出量を分析し、ボトルネックを特定します。
図1は、工程別の温室効果ガス排出量を分析した例です。この例では分析した結果、金属洗浄工程における排出量が多いことが分かりました。この企業では、金属部品洗浄のための炭化水素洗浄機で重油を使用しており、温室効果ガスが多く発生していました。
このような分析を行うことで、「部品の省サイズ化などにより洗浄時間を短くして、重油の使用量を抑える」、「洗浄方式を超音波洗浄や温水洗浄などに替えて、重油を使用しないようにする」といった対策方針を考えることができます。
このように、温室効果ガス排出量が多いScopeやカテゴリについて詳細に分析していくことで、ボトルネックを特定し、有効な対策方針を検討できるようになります。

図1. 工程別の温室効果ガス排出量の見える化
製品企画部門や開発部門が主体となる
ある企業では統合報告書の中で「製品カーボンフットプリントの削減を促進する」と記載されていました。製品カーボンフットプリント(Carbon Footprint of Products;以下CFP)とは、製品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガス排出量を指します。
しかし、開発部門の方に話を伺うと、「そんな話は知らない」、「そもそもCFPをどうやって算定すればよいか分からない」といった声が聞かれ、コーポレート部門と現場部門の間に壁がありました。これではCFPの削減は困難です。
温室効果ガス排出量やCFP削減のためには、製品企画部門や開発部門が主体となり、製品開発段階から取り組むことが重要です。
図2 は、温室効果ガス排出量の発生曲線と決定曲線のイメージ図です。温室効果ガス排出量の発生曲線を見ると分かるように、製品企画・設計段階では温室効果ガスはあまり排出されず、製造段階・使用段階で多く排出されます。
冷蔵庫やエアコン等の家電を例に考えると、家電の製造設備稼働のために燃料や電気を活用したり、家電使用時に電気を用いたりすることで、温室効果ガスが多く排出されますので想像しやすいと思います。
次に、温室効果ガス排出量の決定曲線を見てみると、温室効果ガス排出量のほとんどが、製品企画・設計段階で決まっていることが分かります。製造段階や使用段階で温室効果ガス排出量を削減できる施策は限定的であり、より省エネ性能の高い製品、製造時の使用エネルギーを抑えた製品を、製品企画部門や開発部門が主体となって開発することが肝であることを示しています。

図2.温室効果ガス決定曲線と発生曲線
バリューチェーン企業間で連携する
最後にバリューチェーン企業間での連携です。特に大手製造業の温室効果ガス排出量の内訳を見ると、Scope 3 カテゴリ1「購入した製品・サービス」の占める割合が多い傾向にあります。そのため、サプライヤーと協力して、排出量削減に取り組む必要があります。
サプライチェーンを構成する企業の多くは中小企業であるケースが多く、売上確保、人手不足、原材料高、資金繰りなど目先の課題解決が優先され、カーボンニュートラルに対する経営上の優先順位は低くなりがちです。
そこで、まずはカーボンニュートラルに取り組む必要性や意義を伝え、動機づけを高めることが第一歩になります。サプライヤーの意識醸成から始め、排出量の算定、自社排出量への影響確認、排出量削減計画の作成・実行に取り組み、バリューチェーンの脱炭素化を進めていきます。
まとめ
カーボンニュートラル実現に向けて、温室効果ガス排出量を削減していくためには、排出量を詳細に把握し、現場部門が主体となって、バリューチェーン企業間でも連携しながら推し進めることが肝要です。
当社では、温室効果ガス排出量やCFPの算定・削減、サプライヤーの脱炭素支援など、様々なコンサルティングサービスを提供していますので、お悩みがございましたら、ぜひお問い合わせください。
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